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東京地方裁判所 昭和48年(手ワ)1459号 判決

原告 坂田清

訴訟代理人弁護士 石井久雄

被告 丸善自動車株式会社

代表者代表取締役 岩佐謹吾

訴訟代理人弁護士 立木豊也

有正二朗

主文

1  被告は原告に対し二五六万円と、うち二五万円に対する昭和四八年七月二五日から、その余の金員に対する同年八月二日から支払ずみまでの年六分の割合の金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

4  この判決1項は仮執行ができる。

事実

(一)  求めた裁判

原告(請求趣旨)「被告は原告に対して五一二万円と、うち五〇万円に対する昭和四八年七月二五日から、その余の右金員に対する同年八月二日から各支払ずみまでの年六分の割合の金員を支払え」との判決

被告 請求棄却の判決

(二)  主張・認否

Ⅰ  請求原因

1  原告は別紙手形目録記載の約束手形一七通を所持する。被告は同手形を振出した。

2  よって請求趣旨のとおりの手形金とこれに対する各訴状送達日の翌日である昭和四八年七月二五日と同年八月二日から支払ずみまでの年六分の割合の遅延損害金の支払を求める。

〔認否〕 請求原因1中被告会社の代表者代表取締役岩佐謹吾が本件各手形を振出したこと、原告がこれを所持していること認、その余不知、同2争う。

Ⅱ  抗弁

1  本件各手形が振出された当時被告会社の代表はいずれも代表取締役である岩佐謹吾と礒部秀雄の両名による共同代表制であったので右岩佐が単独で振出した本件各手形の振出しは無効である。

2  かりにそうでないとしても本件各手形を被告会社は株式会社栄光(以下栄光という)に宛てて融通手形として振出したものであるが、同会社はその支払期日の一〇日前にはこれを取戻して被告会社に返還することを約していたのであって、被告会社がその支払責任を負わない手形であった。原告は右栄光の常勤監査役であり右事実を知って害意をもって本件各手形を取得した。

〔認否〕 抗弁1、2否認、原告は栄光の平和相互銀行、亀有信用金庫、東武信用金庫(以下金庫等ということもある)に対する各証書貸付、手形貸付、割引等に関する取引債務につき、それぞれ連帯保証人兼根抵当権設定者となっていたところ、右栄光は昭和四五年五月二五日手形不渡りを出して倒産した。そこで原告は右各保証等契約にもとづき以下に記載するとおり各期日に各金庫等に栄光の債務を代位弁済し、同会社が右各金庫等に担保として裏書譲渡していた手形を裏書交付をうけて取得し、あるいはそれの書換えとして本件各手形の所持人となった。

ア 同年六月一二日亀有信用金庫に対し、弁済額二五、八八八、〇四〇円、譲受手形は本件手形中の(1)~(8)、(14)、なお手形(15)、(16)は右同様の譲受手形を被告会社が原告に対し書き換えたもの、

イ 同年七月二日平和相互銀行に対し、弁済額二一、七八九、四七一円、譲受手形は本件手形(11)(12)、

ハ 同四六年五月二五日東武信用金庫に対し、弁済額五、四八一、〇〇〇円、譲受手形は本件手形(9)、(10)、(13)、なお手形(17)は右同様の譲受手形を被告会社が原告に対し書換えたもの。

Ⅲ  再抗弁

1  かりに被告会社は共同代表の定めがあり、岩佐がこれに反して単独で本件各手形を振出したとしても、

(1) 被告会社は昭和四〇年一〇月二六日設立当時より同四三年一二月九日まで右岩佐の単独代表制をとり、同月一〇日礒部秀雄が代表取締役となって右岩佐との共同代表制となったが、同四八年三月二五日再び岩佐の単独代表制にした。したがって右経緯からみても被告会社では共同代表制をとっていたときでも、右岩佐が実質上の単独代表権をもって業務を遂行していた。

(2) また右岩佐は本件一七通にもおよぶ多数の手形をしかも多数回にわたり振出し、かつ、(ア)額面二五二、〇〇〇円、満期同四五年六月一〇日の手形につき、うち一〇〇、〇〇〇円を支払って残額一五二、〇〇〇円につき、延期手形として本件手形(13)を振出し、(イ)額面二五二、〇〇〇円、満期同年七月一〇日の手形につき、うち五二、〇〇〇円を支払い、残額二〇〇、〇〇〇円につき延期手形として本件手形(17)を振出し、(ウ)額面二五〇、〇〇〇円、満期同年六月二〇日の手形につき、延期手形として本件手形(15)を振出し、同額面、満期同月二八日、および額面四二〇、〇〇〇円、満期同月三〇日の両手形につき、延期手形として本件手形(16)を振出した。

右各事実からは被告会社は右岩佐が単独で本件各手形を含む手形を振出し、かつ振出された手形を決済することを許容し、ないしは黙認していたものであり、原告は右岩佐の単独権限は正当なものと信じて本件手形を取得した。

2  かりにそうでないとしても被告会社は同四八年三月二五日右岩佐を単独で代表権を有する代表取締役に選任したことにより、岩佐の前記各手形の振出行為を追認した。

〔認否〕 再抗弁1中原告主張の各延期手形を振出したこと認、その余否認、同2否認。

(三)  証拠≪省略≫

理由

(一)1  請求原因1中被告会社の代表者代表取締役岩佐が本件各手形を振出したこと、原告がこれを所持すること、は当事者間に争いがない。

2  成立に争いのある書証の作成につき判断するに、甲証二七~二九は原告の、乙証二~二八は被告会社代表者の各尋問結果から、甲証一~一七、一九~二四の各裏書部分は当事者の弁論の全趣旨から、いずれもその作成名義人によって真正に作成されたものと認める。

(二)  抗弁1、再抗弁1について

(1)  ≪証拠省略≫によれば被告会社は昭和四三年一二月一〇日(登記は同月一四日)以降岩佐謹吾と礒部秀雄両名の共同代表制をとり、同四八年三月二五日(登記は同年五月一五日)以降は右岩佐の単独代表制をとっていることが認められる。そうすれば本件各手形が振出された同四四年一〇月一五日ないし同四五年七月一〇日の間はいずれも共同代表制であったのであり、かつ≪証拠省略≫からも本件各手形は右岩佐が被告会社の単独代表取締役として記名押印して振出したものであることも認められる。

(2)  しかしながら≪証拠省略≫によれば、被告会社は前記のとおり昭和四三年に共同代表制をとる以前も岩佐の単独代表制をとっており、またその後共同代表となった前記礒部は実際にはたんに登記簿上表示されていたにとどまり、自らはほとんど被告会社の業務にたずさわることなく、もっぱら岩佐が単独にて会社の業務を担当し、被告会社としてもこれを容認しており、かつ原告も本件各手形の授受に際し、被告会社が共同代表制であることを知らなかったことも認められる。

(3)  そうすれば、共同代表の定めがあり、かつその旨の登記がなされている場合であっても、ある一人の代表取締役が単独で代表権を行使できる者であるとみられる外観をもって代表取締役の名称を使用し、これをその会社自らも容認している場合には商法二六二条により会社は善意の第三者に対し表見責任を負うことになるので、本件においても被告会社は岩佐の右各行為につき責任を負い、結局原告に対し本件各手形の振出しは有効なものといわなければならない。

したがって原告の再抗弁1は理由があるので、その余の再抗弁につき判断するまでもなく、被告会社の抗弁1は理由がない。

(三)  つぎに抗弁2について判断する。

1  ≪証拠省略≫を総合すると、

(1)  被告会社は、昭和四四年一〇月より同四五年五月までの間、本件各手形(ただし手形(15)~(17)を除く)を含め数十通におよぶ手形を栄光に融通手形として振出し交付し、栄光はこれを平和相互銀行、亀有信用金庫、東武信用金庫に担保として提供し、同金庫等より融資をうけて運営資金にあて、かつ右栄光は被告会社に対し右融通手形に見合う額の手形を見返手形として振出し交付していた。

(2)  ところが栄光は同四五年五月二五日手形不渡りを出して倒産するにいたったが、原告は右栄光の金庫等からの借入金につき連帯保証人であったところから、右金庫等より貸付金の支払請求をうけ

ア 同年六月一二日亀有信用金庫に対し二五、八八八、〇四〇円を代位弁済し、これに伴い同金庫の保有していた本件手形(1)~(8)、(14)、およびその他被告会社振出の同様の手形三通(額面計九二〇、〇〇〇円)をいずれも民法五〇〇条、五〇三条により裏書交付を受け、後日被告会社との間で右その他手形三通を書換えて本件手形(15)、(16)の振出交付をうけ、

イ 同年七月二日平和相互銀行に対し二一、七八九、四七一円を代位弁済し、同銀行から同様にして本件手形(11)、(12)の裏書交付をうけ、

ウ 同四六年五月二五日東武信用金庫に対し五、四八一、〇〇〇円を代位弁済し、同金庫から同様にして本件手形(9)、(10)、(13)と、その他被告会社振出の手形一通(額面二五〇、〇〇〇円)の裏書交付をうけ、後日右その他手形一通を書換えて本件手形(17)の振出し交付をうけ

て所持するにいたった。

(3)  しかし被告会社が栄光から受取った前記各見返手形はいずれも不渡りとなり支払をえられなかった。

との事実を認めることができる。

2  ところで連帯保証人が代位弁済をした場合は、本来その債務者に対し求償権を取得することになるが、その債権につき債権者が担保等をもっていた場合には、民法五〇三条によりこれを代位弁済者に交付することとなり、原告も同様の経緯で栄光が金庫等に担保として提供していた本件各手形を裏書交付うけた。このような場合の法律による手形上の権利の移転は手形の支払期日の前後を問わず、また取得者の付着抗弁についての善意悪意を問わず取得者は債権者たる前所持人の手形上の地位をそのまま承継するものと解するのが相当であるので、被告会社のこの点についての抗弁は採用できない。

(四)  このようにして代位弁済の結果原告は被告会社に対して本件各手形の所持人となるが、

1  他方被告会社は前記認定のとおり栄光に対して本件各手形をいずれも融通手形として振出したのであって、このような場合被告会社は被融通者である栄光に対しては同手形の支払義務を負担しないが、同手形を取得した第三者に対しては原則としてその支払を拒むことができない。そしてこのような融通手形を第三者に支払った場合はその支払金額を被融通者に対し、受取った見返手形により支払を求めるか、また原因関係において求償することになる。このことは実質面からみるならば、融通手形の振出人なるものは被融通者の計算において自己の信用を供与するに過ぎないものであって、その地位は融通手形による被担保債権額の範囲内で、すなわち特段の事情のない限りその手形金額の範囲内で債務者に対する連帯保証人的な立場にあるものとみることができる。

2  そして本件各手形に関しては、連帯保証人である原告も、融通手形の振出人である被告会社もともにその手形金額の範囲内で連帯保証人の立場にあるものとみて、原告の被告会社に対する本件各手形金の請求を共同保証人間の求償を規定する民法四六五条、四四二条、四四四条にしたがって制限することが当事者間の公平の理念にかのうものと思われる。

3  そうすれば、本件において連帯保証人としての原告も、手形振出人としての被告会社も、ともに保証につき負担部分をもたないのであるが、債務者たる栄光が前記のとおりすでに倒産して無資力である以上、原告の弁済した本件手形金は民法四四四条により原告、被告会社両名が各平等に分割負担するのが相当である。

(五)  したがって、原告の本訴請求は本件手形金額の半額にあたる二五六万円と、うち二五万円については原告が弁済をなした後の日である昭和四八年七月五日から、その余の金員についても同様の日である同年八月二日から各支払ずみまでの年六分の割合の遅延損害金の支払を求める限度で正当であるので認容し、これを越える請求部分を失当として棄却する。他に民訴法九二条、一九六条各適用

(裁判官 福島重雄)

〈以下省略〉

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